「だめだよ、直人が書かなきゃ。
私は最後にちょっとだけで書くから」
すずはビニールからレターセットを取り出した。
「純のお母さんだって、きっと直人に会いたいって思ってる。
だって、赤ちゃんの時から同じ団地で育ってお母さん同士も仲良しだったんでしょ?」
すずはテーブルに置いている飲み物のグラスを脇に寄せて、紙ナプキンで綺麗にそのスペースを拭いた。
「あ~、俺は文を書くのが苦手なんだ~
だから、純への年賀状だって書かなくなったんだから…」
すずはバッグの中から今度はペンケースを取り出した。
「でも、書かなきゃだめ。私も一緒に考えるから」
すずは一番書きやすいボールペンを直人に渡し、そして直人の隣に移動した。
「純へ、お元気ですか?
出だしはこれでいい?」
すずは直人の横顔をずっと見ている。
「すず?」
「直人…
私も直人と一緒に純のいる場所へ行っていいのかな? 純は直人だけを待ってるのかもしれないのに」