「先生、結婚したんですよね?
僕達、先生は一生独身かもって心配してたからホッとしてます」
クラスで一番のひょうきん者だった伊藤光太郎が、十二歳の頃のノリのままでそう聞いた。
「はい、結婚できました。今は4歳になる娘がいます」
光太郎の言葉がきっかけとなり、楽しかった六年二組のあの頃の空気が戻ってくる。女子は木下の周りに集まり、四歳の娘の可愛らしい話を聞いている。男子は六年前より低くなったせんだんの木の幹に登り、あの頃のようにふざけて遊んでいる。
「あ、今頃、走ってくる奴がいるぞ。
すずだ。すずが来た。
直人、すずだよ」
直人は光太郎の前に出て、光太郎が指さす方を見た。
「すず~~~~」
光太郎は嬉しそうにすずに向かって手を振った。
直人は視線の先にいるずすから目が離せない。