……四年前……
「母さん…… 母さん……」
純は、純のベッドの枕元でうたた寝をしている和美を優しく呼んだ。
「純? 起きたの?」
和美は喜びのあまり、純の顔を両手で優しく包み込んだ。
七月の純の誕生日まであとわずかだというのに、純の体力はもう限界にまできていた。
病院は嫌だという純の希望を尊重し、一か月程前に日光へ帰ってきた。
病院の先生は後は純の体力次第だと言い、家で楽しい時間を家族と過ごさせて下さいと最後にそう付け加えた。
三日前から急激に元気がなくなった純は、一日中ベッドで寝ていた。和美は五分おきに純の呼吸と温もりを確かめて、片時も純から離れなかった。
そして、七月二十日の早朝に、純は突然目を覚ました。
「母さん、ここでずっと寝てたの?」
「そうよ、だって、純、ずっと寝てて起きないから……」
純はクスッと笑った。
「ちょっと起きる?」
和美は目覚めたらすぐに起きたがる純を思い、そう声をかけた。
「ううん、今日はこのままでいいや……」
いつもと様子が違う純に、和美の心臓は激しく高鳴った。