直人は恥ずかしそうに下を向いた。でも、和美の言葉は心地よく直人の胸に響いていく。
…俺のものは純のもの。
小さい時から直人と純は、物の取り合いでケンカをした事はなかった。本当に仲が良い二人は、どんな物でも必要な時にお互いで共有した。
「俺のものは直人のものだから、好きに使っていいよ」
「じゃ、俺のものだって純のものだから、一緒に使おう」
すずは物なんかじゃないけれど、でも、二人にとって宝物のような大切な存在だ。
…俺がすずを大事にする、純はしっかり見守ってくれよ。
直人は、心につかえたままの重しが、また一つ取れたようなそんな気がした。
「それと……
直ちゃんに渡さなきゃいけない大切なものがあるの……
タイミングよく二人になっちゃったから、今、渡すね」
和美はバッグの中から青色の封筒を取り出した。
「直ちゃん……
私もこれで肩の荷が一つおりる。
これは、純が亡くなる二日前に書いた、直ちゃんへ宛てた手紙なの……
書いたって言っても、代筆をしたのは私なんだけどね……」
和美は後ろを振り返り、やっと直人の顔を見てくれた。和美のその顔には寂しさは見えなかった。本当の意味の安堵感からか、和美の表情にはやすらぎすら垣間見える。