直人とすずは、和美の車に乗せてもらい駅まで送ってもらった。
 直人は車の中から、純の大好きだったこの景色を名残惜しそうに見ている。
 心の中の平穏は、まだ全く完璧なものではない。
 純との思い出が多すぎて、きっと。船橋の街では色々な場所に純のかけらを見つけてしまうだろう。
 そして、その度に胸が痛むし、涙がこぼれる。
 でも、それでも、直人は未来に向かって歩いて行かなきゃならない。
 その未来に純は存在しないけれど、もうそんな事どうでもよかった。
 直人は純と一緒に生きることを、心に決めた。純の魂は直人の中に存在する。それだけでいい。
 直人はこの世に生を受けて赤ちゃんの時に純と友達になって、そして、すずにも出会えた。だけど、一番大切な親友をこんなに早くに失くしてしまった。辛くて苦しくて、生きていくのもやっとだけど、でも、それでも、何度生まれ変わっても、直人はこの人生を選ぶだろう。純に出会える人生がこの人生しかないのなら。

「直人、もう、着いたよ」

 すずは、直人にそう言った。すずは、しばらくの間、ぼんやり外を眺めている直人をそっとしておいた。
 でも、その隣で、すずは佑都とLINEの交換をしたり、佑都の中学校の面白い話をたくさん聞いて楽しい時間を過ごしていた。

「佑都君、私の弟になってくれる?
 私、一人っ子で佑都君みたいな弟が欲しいって思ってたんだ」

 佑都は目を輝かせて大きく頷いた。

「純の弟は、私達の弟……
 佑都君も私達の事をそう思ってね」

 佑都は嬉しさで胸が一杯だった。純の事を一番に知っている直人とすずは、佑都にとっては特別だったから。