すずは直人の冷えた背中をずっとさすっていた。直人の気が治まるまではずっとそうしてあげたかった。
 その時、森の中が明るくなった。

「直人、上を見て」

 森に覆われているはずのこの場所に太陽の光が差し込んできた。緑の葉っぱがまるで透かし絵になったみたいに、直人とすずの目には真っ青な大きな空が見える。

「森に穴が開いたみたい……」

 二人の目に映る光景は奇跡でしかなかった。
 葉っぱの緑と空の青、そして、その空間を取り囲む金色の光。
 たくさんの色が混じり合って、美しく鮮やかな虹色のグラデーションを作り上げている。

「純が前に俺に話してくれた話、覚えてる?
 なんとなくキラキラして見えるものには何かしら誰かの魂を宿してるって……
 すず、やっぱり純が俺達に会いに来てくれたんだ。
 このキラキラして見える景色は、純からのプレゼントかもしれない。
 きっと、そうだよな?」

 直人は、夢を見ているみたいだった。いまだに現実なのか夢なのか分からない。でも、手の中に広がるすずの温もりが、それは現実だと教えてくれる。

 今、すずは直人の手をずっと握りしめている。

 「直人、一緒に乗り越えよう……
 ゆっくりでいいから……
 純の思い出を抱きしめながら、二人で歩いて行こう……」

 すずはそう呟いた。直人にも聞こえないくらいの小さな声で。