すずは震える手で直人にハガキを渡した。
 すずは純から送ってきた年賀ハガキの中でこの写真が一番のお気に入りだった。純の文字の入ったこのハガキをいつでも見れるように、お気に入りの本の栞に使っていた。曲がらないように綺麗にラミネートをして、毎日バッグの中に入れて持ち歩いた。

「あ、これ……」

 直人もこの写真には見覚えがあった。川の水に反射してできた虹の写真。
 純がファインダー越しに覗いたこの美しい奇跡の瞬間を、今、直人とすずは共有している。
 川の形も岩の位置も空から降り注ぐ光の具合も、全てが合致していた。虹の大きさも川の透明度もまるで一緒だ。
 直人はその虹から目が離せない。


「直人、よかったね……
 純に直人の言葉はちゃんと届いたみたい。
 純も喜んでる……
 だから、私達にこんな素敵な瞬間を見せてくれた。
 それも、きっと、純が見た景色の中で一番気に入った瞬間に、私達を連れて来てくれた。
 直人……
 純はもう怒ってなんかないよ……
 ううん、最初から怒ってなんかない……
 その答えがこの虹だと思うの……

 前向きに、元気よく……
 虹ってそんなイメージがあるじゃない?
 嬉しくて楽しくて幸せで、温かくて、皆に希望を与えてくれる。
 この虹は、きっと、純から直人へのメッセージだよ。
 直人……聞いてる……?」

 直人はすずの言葉を聞きながら、純が見せてくれた景色を目に焼き付けた。