直人はひざまついて号泣する。ポロポロ落ちる直人の涙が、冷たい川の小石に沁み込んでいく。
 その時、川の真ん中で何かが飛び跳ねる音が聞こえた。直人にもかすかに聞こえたけれど、自分の泣きじゃくる声にその音はかき消された。

「直人」

 直人はすずの呼ぶ声に頭を上げた。

「直人、川を見て」

 すずは慌てて直人のそばに駆け寄った。二人の目に映る川の景色は、不思議で幻想的でこの世のものとは思えない。
 川の真ん中で魚が飛び跳ねたのか鳥が飛び立ったのか、水しぶきがキラキラと上がっている。その小さな霧状の水しぶきに空から落ちてくる太陽の光が反射して、そこの空間だけが金色に輝いていた。そして、その川面から空に向かって七色の虹が形作られていく。
 直人はその虹から目が離せない。それはすずも同じだった。その空間は天国へ繋がっている。そんな風に同じ事を二人は考えていた。
 そして、その虹の光は直人とすずを優しく包み込む。
 直人の中で何かが変わっていくのが分かった。心をがんじがらめにしている重い鎖が一つ一つ解けていくような、そんな心地よい感覚を覚えていた。後悔と悲しみでいっぱいだった頭の中に、純の笑い声がこだまする。

「直人、これを見て……」