直人の閉ざされた心の中に、すずの言葉は沁み込んでいく。
 純が引っ越してから直人はいつも思っていた。
 純が近くにいてくれたら、と……
 口に出したら純に弱虫だと言われるだろう。

「こんな時、純だったらどんな風に考える?
 こういう状況では、純はどんな行動を起こす?」

 直人はいつも心の中で、純にそう問いかけた。直人と真逆の性格の純は、直人が思いつかないようなアイディアをよく思いつく。純と離れ離れになった今日までさえ、直人は純との記憶を手繰り寄せ、純が思いつきそうな事を想像して、まるで自分のアイディアのように振舞った。
 そんな時はいつもいい気分だった。まるで純になれたような気がした。
 そして、それは、いつの間にか直人自身になっていた。
 直人は全く何も気づかずに今まで生きてきた。
 いや、気づくはずがない。純の死すら知らなかったのだから。

 直人は立ち上がると、川の淵まで歩いた。
 すずは心配そうに直人の姿を目で追いかける。
 直人は、川の向こうの森の中できらめく金色の光に向かって叫び出した。

「純、聞いてるか~~?
 俺は……
 純は笑うかもしれないけど……
 でも、俺は、純にどうしても言いたかった事があるんだ…
 それを純に伝えないと、俺は前に進めない……
 純、聞こえてるだろ?
 俺がこの六年間ずっと後悔してきた事を聞いてほしいんだ……」