「それで、次は団地の中の木の上にいた」
「木の上? 団地の?
もしかして、直人の家と純の家の間にあるあの大きな木?」
すずはすぐにピンときた。直人と純しか登る事を許可されなかったあの木だ。
すずは三人で遊ぶ時、いつもこの木の下で二人を待った。上の方から二人の楽しそうな笑い声が聞こえてくる度に、すずはいじけて木の根っこをいつも蹴っていた。
あの木は直人と純のものだった。
「そうあの木の上……
そこで、俺は忘れてた記憶が甦ったんだ」
「忘れてた記憶?」
直人はずっと下を向いている。
「……うん。
純がたくさんの事を思い出させてくれた……」
すずはもう何も聞かなかった。直人の目から大粒の涙がこぼれては落ちる。すずはすぐに直人の手を取り、また優しくさすった。
「すず……
純は俺にたくさんの言葉を残してくれてた。
きっと、その中には今の俺へ向けているメッセージもある。
……でも、俺は純に何も言ってない。
引っ越す純に捨てられたみたいな気分になってた俺は、最後の日だって、ありがとうもさようならも何一つも言ってない。
それが悔しくて悔しくて……
俺だって、純に言いたい事がたくさんあったのに……」