すずは直人を陽の当たる岩場に座らせた。この川べりは陽のあたる場所が少ない。鬱蒼とした森は太陽の光を細かな線にして、木々の隙間からかろうじて光を見せるだけだった。
まだ3月半ばの日光は冬の寒さだ。直人の体は芯から冷えていた。
でも、直人自身、それすらも分からない。直人の全神経は純にしか向かっていない。
すずもその岩場に一緒に腰かけた。そこから見える川の景色は、切なくなるほど美しい。
直人の両手を必死にさすりながら、すずは優しく問いかけた。
「純は何を直人に見せてくれたの?」
すずは、今、自分が何のためにここにいるのかはっきりと分かっていた。
直人の心を癒すために、純がここへ導いた。ボロボロになった直人を優しく包み込むために、純がすずをここへ連れてきた。
「なんだか、夢のような時間だった……
いや、もしかしたら夢だったのかもしれない……
でも、俺は純が隣にいる時の感覚を知っている。体に沁みこんでいるから、だからすぐに分かったんだ。
純は俺の近くにいるって……」
遠くを見つめて話す直人の横顔が、涙で霞んで見えない。
「すず、純が最初に俺を連れて行ってくれた所、どこだと思う?」
すずは見当もつかなかった。直人と純の二人だけの秘密の基地は色々な場所にあったから。