直人はやっと起き上がった。
 すずという温かくて柔らかい存在は、いつでも直人の心に火を灯してくれる。

「いつからここにいるの?」

「……明け方くらい……かな?」

 すずは覇気のない直人の顔を見ると、涙がこみ上げてきた。

「朝起きてリビングに行ったら、おばちゃんが心配だから直人を見に行ってって言うから……」

 すずは直人の冷たくなった手を握った。直人はそれでも何かを捜しているように、目は森の中を見回している。

「直人、昨夜はちゃんと眠れたの?」

「……全然。
 う~ん、どうなんだろう…
 寝てたのか起きてたのかも分かんない」

「なんで?」

「すず……
 多分、俺、純と会ってた……
 純の姿や声は確認できなかったけど、でも純が隣にいたのは分かった。
 すず……
 でも、今は何にも感じないんだ……
 純を捜すんだけど、どこにもいない……」

 すずは溢れる涙を抑える事もせずに、直人を力強く抱きしめた。直人の体は氷のように冷たくなっている。
 すずは直人の背中をさすり、冷たくなった直人の頬にすずの涙で濡れた頬を摺り寄せた。
 直人は抜け殻になっていた。純の幻影を追いかけて、すずの知らない場所へ行ってしまっている。