直人はジャケットをはおり、小石だらけの川べりに寝転んだ。地面の音や優しく流れる水の音、森に住んでいる小動物の動く音、そして自分の心臓の音さえも鮮明に聞こえてくる。
直人は真っ直ぐに上を見上げた。
木々のざわめく音に耳を澄ませ、こぼれ落ちる朝の陽ざしに目を細め、意識を集中させ純の存在を探してみる。ここにはきっと純がいる。直人の直感はそう感じていた。
どれくらいの時間が経ったのかそれさえも分からなかった。直人はずっと空ばかり見つめている。
すると、遠くから誰かが近づいてくる足音がする。
「すず…」
直人は現実に戻された気がして、少しだけがっかりしていた。そういう気持ちのせいなのか、中々起き上がる気になれない。
「直人!」
すずは川が見えてきた途端、川べりに直人が倒れているのを見つけた。
驚きのあまり、走る事が苦手なすずが全速力でここまで走ってきた。息を切らしながら直人の前でしゃがみこみ、すずは直人の顔を覗きこむ。
「すず?」
まばたきもせずに一点を見つめている直人が、小さな声でそう聞いた。
「……めっちゃ走っただろ?」
すずは一気に体の力が抜けた。直人は無事だ。
「もう、バカ……
死んでるって思ったじゃない……
脅かさないでよ……
直人のバカ……」