純の家の庭から下に続く階段の横に、緩やかな手作りのスロープが違った形で川へと続いていた。
直人は階段を下りながら、そのスロープをずっと見ていた。朝日が森の木々に反射してその手作りのスロープの木目を照らしている。
純は全ての人に愛された。
きっとこのスロープも、車いすの純のために、家族や親戚が皆で力を合わせて作ったに違いない。写真を撮る事が大好きな純のために、この家の下にある川の景色を純に見せたかったのだろう。
直人は胸が詰まり、喉の奥が痛かった。
悲しくて悔しくてやりきれないのは、自分一人じゃない。純の家族の顔が今さらながら直人の頭に浮かんできた。このスロープには、純の家族の愛がいっぱいに詰まっている。
直人も純に何かをしてあげたかった。生きている純の照れ臭く笑う顔が見たかった。
階段が終わり道なりに歩いて行くと、森に囲まれたまた違った姿の小川が目に飛び込んできた。直人はあまりの美しさに息を飲んだ。
そこの空間だけが時間が止まったようだった。
水の流れも緩やかで、大きな岩に生えている緑色の苔が水の透明度を際立たせていた。そして、鬱蒼と茂る木々の葉っぱは、風に揺られてざわざわと優しい音を立てている。