直人はあの時のように、純が引っ越す前日にこの木の上で泣きじゃくったように、また同じように声を上げて泣いた。
あの時は、途中から純も一緒に泣いた。でも、今は純の姿はない。直人がどんなに純を呼んでも叫んでも、純は直人に姿を見せない。
直人は心のどこかで分かっていた。
純がこうやって直人に見せている全ての景色には意味があることを。
直人が純の死を受け入れずにいる間は不確かであやふやなままだけれど、必ずいつか純の思いが直人に届く日が来る。でも、直人は純との思い出を笑って話せる日が来る事を、今は想像もできない。
直人は肩を震わせてしばらくずっと泣いていた。純の魂を心のどこかに感じながら。
一体、どれ位の時間が経ったのだろう。直人が泣き腫らした目を静かに開けてみると、また違う風景が広がっていた。
木の上にいることに変わりはない。でも、明らかに別の木だった。
直人はそこがどこなのか、いつの風景なのか、一瞬で分かった。
直人は小学校の大きなせんだんの木のてっぺんに座っていた。
葉っぱの揺れる音、風の匂い、柔らかい陽ざし、直人達のはしゃぐ声。このせんだんの木の下で、六年二組の皆が楽しそうに笑っている。
直人の心は張り詰めた糸のように震えが止まらなかった。