今、直人は、あの時と同じこの木に座っている。あの日、最後に交わした純との会話が映像となり直人の頭の中で甦る。

「純は日光に行ったら、どうせ俺達の事は忘れるんだ……」

 直人は純と離れ離れになるのが辛くて、こんな事しか純に言えなかった。

「直人のバカ……
 日光に行ってもどこに行っても、俺は直人の事は絶対に忘れない。
 それに俺と直人は離れても友達だろ?
 どこにいても俺達の関係は変わらないし、それは永遠に続くんだ」

 直人は純の前で泣きじゃくった。明日になれば純はこの団地からいなくなる。どうしても直人は素直になれなかった。こんなに寂しくて辛いのはきっと俺だけなんだと思い込んでいた。
 次の日も、直人は純にまともにさようならも言えなかった。

 「またすぐに会えるよ」

 見送りに来た皆が、声を揃えてそう言っていた。直人に聞こえるように大きな声で。
 直人はぼんやりとその光景を思い出している。
 そして、直人は毎日見慣れた団地の景色をあらためて見渡した。薄紫色の景色の中で、幼い直人と純が走り回って遊んでいる。耳を澄ますと、幼い純と直人の声がした。

「俺の親友の直人は、誰よりも強くてたくましいんだからな」
「俺の親友の純だって、そうだからな」

 楽しそうに笑っている二人は、本当に親友だった。