「直人、よろしくお願いします」

 この木で遊ぶ時、純は必ず直人にそう言った。背の低い純は、この木に自分で登ることができない。プライドが高く負けず嫌いな純なのに、この木の前だけは直人の言いなりだった。

「よし、じゃ、乗って」

 直人は自分を頼ってくれる純の気持ちが嬉しくて、毎回おぶって先に純を木に登らせた。この木の上では、純は何でも直人の言う事を聞いた。
 本当は直人は頼りがいがある強くてたくましい奴なんだって、この木に登るたびに言ってくれた。でも、純はそう言いながらも、いつも木のてっぺんの細い枝の場所まで登る。
 そこへは体の大きな直人は行けなかった。直人が登れば、その細い枝は折れてしまう。

「直人、俺が何も怖がらずにこの細い枝に登れるのがなんでか分かる?」

 純がこの細い枝に登る時に必ず言う台詞があった。

「俺がここに登れるのは、直人が俺を下で見守ってくれてるからなんだ。
 だって、ほら、もしこの枝が折れて俺が落ちても、直人が絶対捕まえてくれるだろ?」

「そんな、落ちる場所によると思うよ」

 照れくさい直人が言う台詞もいつも一緒だ。

「ううん、直人は絶対支えてくれる。
 それが直人だろ?
 俺の親友の直人は強くてたくましいんだから」