直人はその頃の自分を思い出し苦笑いをした。
 純が転校せずにこの中学校にいれば、すずは純とつき合っていたはずだ。直人はそう信じていた。
 …すずは純のもの、俺は純には敵わない。

「純、すずにちゃんと好きって言ったのか?
 実は俺もすずの事が好きだったんだ。いや、違う、本当は今も好きなんだ。
 純、ごめんな、お前がこんなだなんて知らずに、俺、すずに告白した。
 すずは純のものなのに…
 ねえ、純、すずと俺はどうすればいい?
 純、教えてくれよ。
 俺は、このままだと、お前からすずを奪うことになる。
 純、俺はどうすればいい?
 何か言ってくれよ、そこにいるんだろ?
 純… 純…」

 直人はそう言いながら、大きな声を上げて泣いた。中学校の景色が涙で見えなくなる。すずと純の事を思えば、不憫で可哀想でいたたまれなくなる。すずを好きな純の笑顔が泣き顔に変わっていく。
 そして、直人は、純が見せてくれているこの中学校の景色の意味について考えた。この景色を見て何かを考えろと言われても、何も思いつかないし分からない。
 すると、急に、ぼんやりとしていた風景がはっきりと見え始めた。
 校庭の隅でグランドを見ているセーラー服姿のすずがいて、そのグランドで友達とふざけて遊んでいる自分がいる。
 あの頃の直人はたくさんの傷を抱えて生きていた。自分に自信が持てずに、無意識に純の事を心の中で探していた。