直人は純の家の屋根の上から、純が見せてくれている景色をジッと見ていた。直人の記憶の中の残像のせいか、純の家へ続く国道を歩いている自分自身とすずが見える気がした。
ほんの何時間前の話だ。
この現象だって、純が見せてくれているものではないのかもしれない。ただ自分の頭の中で自分の記憶を辿っているだけなのかもしれない。
直人はそんな事をぼんやり考えながら、薄紫色の美しい世界を見ていた。でも、直人の直感は純の何かを感じている。
昔から純は何をするにも直人より先だった。好奇心旺盛で負けず嫌いの純は、必ず誰よりも先頭に立ちたかった。直人は、いつも純の後を一歩遅れてついて行く。それが直人にとっては居心地が良かったし、その立ち位置に満足していた。
「直人、行くぞ」
それが純の口癖であり、直人への号令だ。おっとりしている直人にとって、純の存在は憧れであり目標だった。バイタリティーに満ち溢れている純の行動力と探求心は、直人の中には持ち合わせていない。
直人は純の向かう場所がいつも正解だと思っていたし、純の目指すてっぺんに必死について行く事が楽しかった。
純は直人の道標でもあり、ゴールでもあった。そして、今も、直人は純にただひたすらついて行く。
今も昔も何ら変わらない二人の関係性は、直人の心を幾分か落ち着かせた。