直人は家の中でのすず達の会話を静かに聞いていた。もう涙は枯れ果て、息をすることだけで精一杯だった。
 時間が経つにつれ、色々な真実が分かってくる。でも、その真実は純が死んだとういう前提で話が進んでいく。直人の心は頑なに純の死を拒んでいた。拒まなければ、直人は息すらできなかった。

「直人兄ちゃん、あの話を聞かせて」

 直人の隣に来た佑都が、突然そう聞いてきた。

「あの話?」

 直人は一気に現実に呼び戻される。

「バスの中から、兄ちゃんを見たっていう話…」

 いつの間にか、直人の近くに和美もすずも集まっている。

「…………」

 直人はしばらく黙っていた。あのバスの中から見た純を思い出す。

「……俺が見たのは絶対に純だった。
 窓からずっと外を見ていたら、森の茂みが途切れる明るい空間があって、そこに純が立ってた……
 俺の顔を見て、ホッとした顔をしてた……
 やっと見つけた、みたいな顔をして……」