和美は自分のためにお茶をつぎ足し、そして、すずのコップにもオレンジジュースをついでくれた。和美は一息つき、大きな瞳で見つめるすずを見て笑顔で小さく頷いた。

「すずちゃん、そして、直ちゃん?
 直ちゃんも聞いてね…
 まずは純に代わって謝ります… 五年間もあなた達を騙していたことを。
 純は、きっと、最初は何も深く考えないでそんな事を言い出したんだと思うの。
 元気で暮らしている船橋の友達に自分が病気だということを知ってほしくなかったし、ましてやもうすぐ死んでしまうなんて何があっても気づかれたくなかった。
 意地っ張りで負けず嫌いな純でしょ?
 私はそんな純の姿を見るのが辛かったし、純がしたい事なら何でもしてあげようって心に決めた。  
 ちょうどクリスマスの時期に病室で年賀状の準備をしていた時、純が、母さん、もし僕が死んでもこの年賀状は送り続けてほしいって言ってきた。
 直人とすずだけには、送ってほしいって…
 僕のデジカメの中に入っている写真が底を尽きるまででいいからって…」

 すずは和美をずっと見ていた。
 …どれだけ辛かったことだろう。愛する我が子の口からそんな事を聞くなんて。
 和美の目元に増えたしわには、きっとたくさんの純への想いが刻まれている。