すずは直人の手を引いて、純の家へ向かった。
 直人は、まだそれでも前を向けずにいる。そんな時、純の家の窓からこぼれる暖かい明かりが、直人の暗く沈んだ気持ちを少しだけ落ち着かせてくれた。

「直ちゃん、こっちへいらっしゃい」

 和美は笑顔で直人を迎えた。

「直人か?
 大きくなったな~ 覚えてるかい? 
 修学旅行の日光の旅館で、純と二人で先生に怒られてた所にやって来た純のじいちゃんだ」

 直人は軽く微笑んで会釈をした。
 れもん牛乳を持って来てくれた純のおじいちゃんを忘れるはずがない。あの時、純に誘われて勝手に外に出たのは、れもん牛乳を買いに行くためだった。先生に散々怒られて、純と二人で落ち込んでいた時に、タイミングよくれもん牛乳を買ってきてくれていた純のおじいちゃんのエピソードは、修学旅行の楽しい思い出の一つになっている。

「直ちゃん、すずちゃん、おばちゃんがご馳走を作ったから、たくさん食べてね」

「はい」

 すずは大きな声でそう言った。元気がない直人のために、大好きな純の家族のために、そして自分のために、ずすは必死に明るく振舞った。