すずは玄関先から泣いている直人を見ていた。今は一人にしてあげたい。すずの心の中に大きな穴が開いてしまったように、直人の心情を考えると胸が引き裂かれる思いがした。
 玄関から外へ出たすずも、その場に膝を抱えて座った。直人の泣きじゃくる声が、風に乗ってすずのいる場所まで聞こえてくる。すずも膝に顔をうずめて泣くしかなかった。息を殺し、心の中で純の名前を何度も呼ぶけれど、自分の嗚咽の声しか聞こえない。
 すずは自分の無力さが悔しくてたまらなかった。純も、そして、今苦しんでいる直人も助けてあげられない。二人の強く深く結びついた魂は、きっと、すずを求めている。

「すずちゃん……」

 すずは涙を拭いて呼ばれた方へ振り返った。

「すずちゃん、もう風邪ひくから家に入った方がいいよ。
 今日は直ちゃんも一緒に家に泊まってね」

 和美はすずにそう言うと、直人の方を寂しそうな顔で見た。

「すずちゃん……
 直ちゃんの事、呼んできてもらえる?
 彼にとってはどうしようもないほどやりきれないことだと思うけど、純のためにも乗り切ってもらいたい。簡単な事じゃないことは分かってる。
 私だっていまだにそれで苦しんでいるから…」

 和美はすずに優しく笑いかけると、家の中に入って行った。