修学旅行から戻り、待ちに待った水曜日を迎えた。河川敷に来てみれば、ジャンはいつもの場所でギターを弾いている。チャコはジャンがいることにほっと息をついた。
演奏の邪魔をしないようにゆっくりと近づていく。ジャンがどういう反応をするかわからないから、緊張して自然と体に力が入る。チャコは恐る恐るジャンの隣まで行き、いつもの距離を空けて静かに腰を下ろそうとした。
と、その瞬間、チャコに気づいたらしいジャンが、演奏の手を止めてチャコのほうへ顔を向けてきた。
ジャンは一瞬だけ驚いた表情をすると、すぐにその顔を強くしかめた。どうやら怒っているようだ。そんな表情を見ては座るに座れなくて、チャコは中途半端な状態で止まってしまう。だがそれも一瞬のことだった。突然ジャンに手首を掴まれ、グイっと引っ張られる。チャコはその勢いにつられて彼のすぐ隣に座ってしまった。その距離十センチ。あまりにも近い距離にチャコはどきまぎするが、それよりもジャンの表情のほうが気になった。
「あの、もしかして先週来なかったの怒ってる?」
ジャンはチャコの手首をつかんだまま、ずっと眉をひそめている。やはり怒っているようだ。
「ごめんなさい!」
チャコは思いきり頭を下げて謝った。
「先週、修学旅行に行ってて来れなかったの。ジャンに言うの忘れてた……ごめんなさい」
もう一度頭を下げたあとに恐る恐るジャンを見てみれば、少し驚いたような表情をしていた。先ほどの不快感をあらわにしたような表情は消えている。チャコは謝罪の勢いに乗せて、持ってきた長崎土産をジャンにずいっと差し出した。
「これお土産! 長崎だったから、長崎ちゃんぽん!」
ジャンはそれを素直に受け取ると目をパチパチとさせた。そして、チャコと手元のちゃんぽんを見比べると、なぜかおかしそうに微笑んだ。
「本当にごめんね」
もう一度謝れば、ジャンは優しい微笑みを浮かべて、チャコの頭をポンポンっと軽く叩いた。
(っ! そんなんされたらキュンてなる……)
チャコが恥ずかしそうにしていれば、ジャンはもう一度チャコの頭にポンポンっと軽く触れた。ジャンはずっとにこにことしている。もう怒ってはないようだ。許してくれたらしい。
「ジャン……今度からはちゃんと言うね?」
ジャンは嬉しそうに笑っている。いつもの空気が流れてチャコはようやく肩の力を抜いた。
「ねぇ、今日は歌うんじゃなくて、ジャンのギターいっぱい聴きたいな」
チャコがそう言えば、ジャンはそれに応えていろいろな曲を弾いてくれる。いつもよりも近い距離で聴いているからか、なんだか少しくすぐったい気持ちだ。
ジャンはしばらくしてから演奏の手を止めるとチャコを見つめてにこにこと微笑む。至近距離で浴びる天使の微笑みにチャコは今にも昇天しそうだ。そのままジャンと目を合わせていられなくて、咄嗟に顔を下に向ければ視界に自分の鞄が入ってきた。それを見てふと思いだした。ジャンに見せたいものがあったのだと。
「そうだ! あのね、面白いのがあるの。じゃーん!」
チャコは鞄からきれいに装飾が施されたガラスを取りだした。風鈴みたいな形の頭には細長い棒がついている。
「知ってる? ビードロっていうんだよ。これも長崎で買ってきたんだ。きれいでしょ? これを吹くとねポコって音が鳴るんだよ」
チャコがビードロを吹いてみれば、ポコっとかわいらしい音が鳴る。それを何度か繰り返せば、隣からまたギターの音が聞こえはじめた。『幸せなら手をたたこう』だ。ジャンの言わんとすることがわかって、チャコはジャンの演奏に合わせてポコポコとビードロを鳴らす。なんともかわいい音楽が生まれて、チャコは楽しくて楽しくてたまらなかった。
「あはは! 楽しいね! 私、ジャンと一緒に音楽するの大好き!」
ジャンは何も言わないけれど、それでもその表情からは楽しいという感情が窺える。チャコはそれがとても嬉しかった。
その日、ジャンはチャコの要望通りたくさんの演奏を聴かせてくれて、チャコはジャンとの時間がもっともっと好きになった。
演奏の邪魔をしないようにゆっくりと近づていく。ジャンがどういう反応をするかわからないから、緊張して自然と体に力が入る。チャコは恐る恐るジャンの隣まで行き、いつもの距離を空けて静かに腰を下ろそうとした。
と、その瞬間、チャコに気づいたらしいジャンが、演奏の手を止めてチャコのほうへ顔を向けてきた。
ジャンは一瞬だけ驚いた表情をすると、すぐにその顔を強くしかめた。どうやら怒っているようだ。そんな表情を見ては座るに座れなくて、チャコは中途半端な状態で止まってしまう。だがそれも一瞬のことだった。突然ジャンに手首を掴まれ、グイっと引っ張られる。チャコはその勢いにつられて彼のすぐ隣に座ってしまった。その距離十センチ。あまりにも近い距離にチャコはどきまぎするが、それよりもジャンの表情のほうが気になった。
「あの、もしかして先週来なかったの怒ってる?」
ジャンはチャコの手首をつかんだまま、ずっと眉をひそめている。やはり怒っているようだ。
「ごめんなさい!」
チャコは思いきり頭を下げて謝った。
「先週、修学旅行に行ってて来れなかったの。ジャンに言うの忘れてた……ごめんなさい」
もう一度頭を下げたあとに恐る恐るジャンを見てみれば、少し驚いたような表情をしていた。先ほどの不快感をあらわにしたような表情は消えている。チャコは謝罪の勢いに乗せて、持ってきた長崎土産をジャンにずいっと差し出した。
「これお土産! 長崎だったから、長崎ちゃんぽん!」
ジャンはそれを素直に受け取ると目をパチパチとさせた。そして、チャコと手元のちゃんぽんを見比べると、なぜかおかしそうに微笑んだ。
「本当にごめんね」
もう一度謝れば、ジャンは優しい微笑みを浮かべて、チャコの頭をポンポンっと軽く叩いた。
(っ! そんなんされたらキュンてなる……)
チャコが恥ずかしそうにしていれば、ジャンはもう一度チャコの頭にポンポンっと軽く触れた。ジャンはずっとにこにことしている。もう怒ってはないようだ。許してくれたらしい。
「ジャン……今度からはちゃんと言うね?」
ジャンは嬉しそうに笑っている。いつもの空気が流れてチャコはようやく肩の力を抜いた。
「ねぇ、今日は歌うんじゃなくて、ジャンのギターいっぱい聴きたいな」
チャコがそう言えば、ジャンはそれに応えていろいろな曲を弾いてくれる。いつもよりも近い距離で聴いているからか、なんだか少しくすぐったい気持ちだ。
ジャンはしばらくしてから演奏の手を止めるとチャコを見つめてにこにこと微笑む。至近距離で浴びる天使の微笑みにチャコは今にも昇天しそうだ。そのままジャンと目を合わせていられなくて、咄嗟に顔を下に向ければ視界に自分の鞄が入ってきた。それを見てふと思いだした。ジャンに見せたいものがあったのだと。
「そうだ! あのね、面白いのがあるの。じゃーん!」
チャコは鞄からきれいに装飾が施されたガラスを取りだした。風鈴みたいな形の頭には細長い棒がついている。
「知ってる? ビードロっていうんだよ。これも長崎で買ってきたんだ。きれいでしょ? これを吹くとねポコって音が鳴るんだよ」
チャコがビードロを吹いてみれば、ポコっとかわいらしい音が鳴る。それを何度か繰り返せば、隣からまたギターの音が聞こえはじめた。『幸せなら手をたたこう』だ。ジャンの言わんとすることがわかって、チャコはジャンの演奏に合わせてポコポコとビードロを鳴らす。なんともかわいい音楽が生まれて、チャコは楽しくて楽しくてたまらなかった。
「あはは! 楽しいね! 私、ジャンと一緒に音楽するの大好き!」
ジャンは何も言わないけれど、それでもその表情からは楽しいという感情が窺える。チャコはそれがとても嬉しかった。
その日、ジャンはチャコの要望通りたくさんの演奏を聴かせてくれて、チャコはジャンとの時間がもっともっと好きになった。