「事故であるならいいのです。不運だったと思えばいいのですから。でも、事件だった場合、悪意を持つ何者かが、由乃さんかわたし、または由乃さんとわたし、を狙っていることになります」
「そうだな。この件は引き続き捜査を継続しよう。成子嬢、証言を感謝する。君もしばらく気を付けろよ。園山家に籠り、増長に言って警備を頼むといい」
「そうしたいのは山々ですが、わたしも調べたい件がありまして」
「なんだ? 急ぐことなのか?」

 響は苛立った。狙われているのかもしれないというのに、なにを調べるというのか。

「蜷川家について、ですわ。響様は、由乃さんが蜷川家の遠縁であることをご存じですわよね」
「もちろんだ。その蜷川家で不当な扱いを受けていたからこそ、由乃を連れてきたのだからな」
「あらまあ! ということは一目惚れからの略奪……っていうのはさておき、わたしが調べたいのは、蜷川家の内情です。由乃さんに話を聞いたのですが、あの家は輔翼の家としての道を踏み外してしまっているようです。ならば、正さなければいけませんでしょう? 残り十軒しかないのですから、出来るだけ潰れて欲しくはありませんもの」
「潰れるのは自然の成り行きだがな」

 初めて訪れた時の、蜷川家の淀んだ空気は尋常ではなかった。あのままでは近い将来、潰れるのは目に見えている。だが、次の転生を考えていなかった響にとって、輔翼の家の存亡はそれほど重要ではない。

「そうかもしれません。しかし、少々気になることもございますので、わたしは独自で蜷川家の調査をしますわ」
「気になること?」
「ええ。でもそれは、わたしの推測……というか、妄想の域を出ないので、まだお教えは出来ません」

 成子はきっぱりと言った。