(くそ。こいつ、知っていて黙っていたな? 由乃のことに必死で、周りに気付かなかった俺の落ち度ではあるが、成子がいることを言わないなんて、ふざけるのも大概にしろ)
 と、文句を言ってみたものの、起きてしまったことは仕方ない。響は成子に向き直ると言った。

「そう言えば、成子嬢。君は俺に話があってここに来たのだったな」
「ええ。そうです」
「では、書斎で聞くとしよう。さあ、行こうか」
「恐れ入ります」

 成子は、未だ苦笑いの表情を継続中である。響は蜜豆と由乃を部屋に残し、成子と共に書斎に移動した。


 書斎に移動し、響は成子に椅子を勧める。ありがとうございます、と優雅に腰掛ける彼女の対面に座ると、響は話を切り出した。

「蜜豆から事情は聞いている。確か、翡翠会館で増長が言っていた件で、納得がいかないとか……」
「あ、いいえ。もうよいのです」

 あまりにもあっさりと言われたので、一瞬響は面食らった。蜜豆の話では、凄い勢いで多聞家にやってきて、響との話し合いを望んだという。この短時間でどういう心境の変化があったのか……響は、平静を装いながら尋ねた。

「もうよい、とは?」
「薄々そうではないかと思っておりましたが、先ほどのおふたりの様子を見て確信いたしました。わたしでは、どうやっても太刀打ち出来そうにないと」
「……待て、意味がわからないのだが? ふたりの様子とは、どのふたりのことだ?」
「え、まさか……まさか……響様は無意識であのようなことを?」

 成子は狼狽え、響は眉根を寄せる。