「ええと……響様でしょうか?」

 由乃は目を丸くしている。いつもとかけ離れた響の鬼神化に戸惑っているのだろう。金色の瞳、額から出た角、衣服も天の衣になっているのだから。

「ああ、俺だ。鬼神化しているから、いつもとかなり違うだろう。驚かせて悪い」
「いいえ……びっくりはしましたが、神々しいお姿でしたのですぐにわかりました。それで……どうかしたのですか? 部屋においでになるなんて……」
「どうかしたのですか?……ではない! お前が怪我をしたと聞いて、飛んで帰って来たのだ!」

 居ても立っても居られず、蘇芳を置いて帰ってきた。無事だとわかってはいるが、どうしても自分の目で確かめなければ我慢ならない、そんな気持ちになったのだ。

「わ、私の怪我のことを……聞いて、ですか?」
「そうだ!」
「……なんということでしょう!」

 叫ぶと、由乃は怪我をした足をゆっくり折り曲げ、寝台の上に正座をした。そして、額を寝具に付けるくらい深々と頭を下げたのだ。

「おい! なにを……」
「響様の大切なお仕事の最中に、こんな怪我をしてしまい申し訳ございません。私のような使用人のために貴重な時間を割いていただき……」
「よせ」

 響は鬼神化を解き、人の姿に戻ると由乃に歩み寄る。それから、寝台で頭を下げたままの由乃の隣に座ると、そっと頭を撫でた。