大阪の駐屯地で視察を終えたあと、響と蘇芳は用意された宿に到着した。
 時刻は午後四時。名湯と名高い温泉が併設されている旅館は、多くの宿泊客がいて盛況なようだ。

「やあー、疲れましたねえ。早速温泉に向かいますか?」

 部屋に入るなり、蘇芳が大きく伸びをする。響の視察に先立って、大阪入りしていた蘇芳は段取りや様々な連絡のやり取りでかなり疲れている。明日やっと帰京出来ると思って、ほっとしているのだ。

「ああ、先に湯に浸かり、疲れをとるといい」
「え? 一緒に行かないんですか?」
「お前と一緒だとうるさいからな。あとにする」
「酷いなあ。あ、そうだ。夕食は懐石料理らしいですよ? 何時に用意してもらいましょうか? 浴場に行くついでに、受付で頼んでおきます」

 夕食、と聞いて一瞬響は由乃を思い出した。
 老舗旅館の懐石料理が不味いはずはないだろう。贅を尽くした食事が出てくるに違いない。だがそれよりも、響は由乃の料理が恋しかった。由乃がお弁当を作ってくれるようになって、体力気力が恐ろしいほど充実している。なにを食べても美味しく、どれを食べても幸せを感じる。特に糠漬けは一切れで疲れが吹っ飛ぶほどの効果で、鳴などは虎視眈々と商品化を狙っているようだ。

「七時でいいだろう」
「了解です!」 

 元気よく返事をすると、蘇芳は飛ぶように浴場へと向かった。
 ひとりになると、響は鞄からお弁当箱を取り出した。すでに昨日の昼に食べ終えていて中身は空だ。しかし、取りに来るはずの蜜豆と白玉が一向に来ない。そのため、お弁当箱を持ったまま移動をすることになったのだ。