「どういうこと? 本家で使用人? 同じ蜷川姓なのだから親戚じゃないの? 蜷川本家って親戚を使用人にするほど零落していたのかしら?」

 眉根を寄せる成子は皮肉たっぷりに言った。しかし、それは由乃に対してではない。仮にも鬼神に仕える輔翼本家なのに、親戚を使用人として雇わざるを得ない、その不甲斐なさに対してだ。ただ、実際由乃が使用人扱いされていたのは、華絵が嫌がらせをしたいがため。決して、お金の問題ではない。でも由乃はそれを言えなかった。どちらにしろ、輔翼の家としては恥ずべきことだと思ったのだ。父と母、そして先祖が、清廉に実直に守ってきた蜷川家なのに、こんな悪評が立つようになってしまうなんて……と、由乃の表情は沈んだ。それを見て、成子は勘違いをした。

「あら、ごめんなさい。本家を悪く言われたら、気分はよくないわよね」
「いえ、そういうわけでは……」
「はっきり言ってくれていいのよ。わたし、なんでも率直に言ってしまう癖があって、よく両親に注意されるの」
「あの……差し出がましいようですが、率直なのは悪いことではないと思います。先入観がなく素直で誠実な成子様の言葉は、私にはとても心地がよく感じます」

 すると成子は、驚いたように目を見開き、その後、恥ずかしそうに頬を染めた。普段強気の成子は、褒められると照れるらしい。そういうところも好感度が高いと、由乃の心は温かくなった。