「そうなのですか? しきりに由乃さんを見ているから、なにか言いたいことでもあるのかと思いましたわ」
「うえっ? あ、ああ、そうです、そうなんです! 今日の夕餉も美味しいよ、と言いたくて」
「なるほど! 確かにそうですわね。昼餉もこの夕餉も、一流の料亭に負けない美味しさなのは間違いないですわ。響様の妻になれたら、由乃さんの料理が毎日食べられるのよねえ」
成子は夢見るような表情をした。その様子を見ていた由乃は、心の奥底にちくっと棘が刺さるような感覚を覚え驚いた。それがなにかはわからない。悲しくて空しくて……なぜか、切なくなる感情を、由乃は生まれて初めて感じたのである。
そんな由乃の心の機微を感じ取ったのか、鳴が話題を変えた。
「……成子さん、明日はどうなさるおつもり? 響様の帰りは明後日の夕刻だから、暇なのではなくて?」
「いえ、明日は贔屓の呉服屋に行く予定ですの。それから、今話題の甘味処にも寄ろうかと……せっかくなので、少し観光してきますわ」
「そう。楽しんできてね」
「はい。それで、由乃さんに同行を頼みたいのです。よろしいですか?」
成子が言うと、鳴は目を丸くし、奏と厳島は呆気にとられ、由乃は唖然とした。
どうして由乃を同行させるのか、その真意がわからないからだ。
「え? ど、どうして由乃を?」
「鳴様、帝都観光をわたしひとりでなんて寂しいですわ。由乃さんに同行してもらえれば楽しいし心強いだろうな、と考えまして」
「でも、由乃は地方から出てきたばかりで、帝都に土地勘はないわよ?」
「あら、そうだったのですね。じゃあ尚更、帝都観光を楽しめるのではないでしょうか? 誰かと一緒のほうが絶対楽しいに決まっていますもの」
そう言って成子は由乃に微笑みかける。
帝都観光に興味がないわけではないが、由乃には仕事があり、呑気に観光に行ける身分ではない。なので、黙っておくことにした。ここは、鳴の判断に任せるのが賢明だと考えたのだ。
「そう……いいでしょう。多聞家に来てから、由乃は働き詰めだったものね。明日は休んで成子さんと観光してくるといいわ」
「ふふ。よかったわね、由乃さん。明日は楽しみましょう」
鳴と成子に見つめられ、由乃は「畏まりました」と控えめに答えた。観光に行けて嬉しいと思う反面、成子とふたりきりだと緊張する。同年代の女性と出掛けたことのない由乃にとって、なにもかもが初めての経験なのだ。
「うえっ? あ、ああ、そうです、そうなんです! 今日の夕餉も美味しいよ、と言いたくて」
「なるほど! 確かにそうですわね。昼餉もこの夕餉も、一流の料亭に負けない美味しさなのは間違いないですわ。響様の妻になれたら、由乃さんの料理が毎日食べられるのよねえ」
成子は夢見るような表情をした。その様子を見ていた由乃は、心の奥底にちくっと棘が刺さるような感覚を覚え驚いた。それがなにかはわからない。悲しくて空しくて……なぜか、切なくなる感情を、由乃は生まれて初めて感じたのである。
そんな由乃の心の機微を感じ取ったのか、鳴が話題を変えた。
「……成子さん、明日はどうなさるおつもり? 響様の帰りは明後日の夕刻だから、暇なのではなくて?」
「いえ、明日は贔屓の呉服屋に行く予定ですの。それから、今話題の甘味処にも寄ろうかと……せっかくなので、少し観光してきますわ」
「そう。楽しんできてね」
「はい。それで、由乃さんに同行を頼みたいのです。よろしいですか?」
成子が言うと、鳴は目を丸くし、奏と厳島は呆気にとられ、由乃は唖然とした。
どうして由乃を同行させるのか、その真意がわからないからだ。
「え? ど、どうして由乃を?」
「鳴様、帝都観光をわたしひとりでなんて寂しいですわ。由乃さんに同行してもらえれば楽しいし心強いだろうな、と考えまして」
「でも、由乃は地方から出てきたばかりで、帝都に土地勘はないわよ?」
「あら、そうだったのですね。じゃあ尚更、帝都観光を楽しめるのではないでしょうか? 誰かと一緒のほうが絶対楽しいに決まっていますもの」
そう言って成子は由乃に微笑みかける。
帝都観光に興味がないわけではないが、由乃には仕事があり、呑気に観光に行ける身分ではない。なので、黙っておくことにした。ここは、鳴の判断に任せるのが賢明だと考えたのだ。
「そう……いいでしょう。多聞家に来てから、由乃は働き詰めだったものね。明日は休んで成子さんと観光してくるといいわ」
「ふふ。よかったわね、由乃さん。明日は楽しみましょう」
鳴と成子に見つめられ、由乃は「畏まりました」と控えめに答えた。観光に行けて嬉しいと思う反面、成子とふたりきりだと緊張する。同年代の女性と出掛けたことのない由乃にとって、なにもかもが初めての経験なのだ。