掃除を済ませ、昼餉の準備をすると、成子を呼ぶ。食堂で昼餉を取った成子は、由乃の料理を絶賛してくれた。特に糠漬けを大層気に入り、販売しない? と鳴と同じことを言うので、由乃はおかしくなって笑ってしまった。
 午後、成子は自分で言った通り、自由に屋敷を散策していた。ところどころで蜜豆が隠れて様子を窺っていたようだが、成子は気付かずに鼻歌交じりで闊歩している。あの執拗な蜜豆の視線をものともしないなんて、もしかしたら、成子はとんでもなく大物かもしれない、と思った由乃である。
 そして、日が暮れた頃、鳴が仕事から帰宅した。園山家からの思わぬ来客に驚いてはいたが、成子の響に対する想いに押され、明後日までの滞在を許可した。
 というわけで、多聞家の夕餉は、鳴と奏に成子を加えた三人。奏は初めて会うお嫁様候補の女性に少し緊張しているようだ。

「鳴様、奏様、家族団らんにお邪魔してしまい、申し訳ありません」

 夕餉を前にして、成子が言った。

「いいのよ。あなたは輔翼本家の娘でお嫁様候補だもの。多少の無理は聞きましょう」
「響様と話す機会を作って下さり、ありがとうございます。これで、わたしの良さをわかっていただけたら……と考えております。あら、奏様、どうかなさいましたか? そんなにキョロキョロとなさって」
「あ、い、いいえ。なんでもありません……」

 と、否定したが、由乃から見ても奏は挙動不審である。成子をチラ見しては、心配そうに由乃を見、それからなにかを言いたげに鳴を見て、また由乃に視線を戻す。あまりの不審さに、どこか具合でも悪いのかと思ったほどだ。