「響様は本日から大阪に視察へ向かいます。帰宅は明後日になりますので、その頃にいらしてはどうでしょうか?」
「あら、そうなの? でも……せっかく来たのだし待つわよ」
成子はにっこりと微笑む。引き下がるつもりは露程もないようだ。諦めた様子の厳島は、それでも礼節を欠くことなく丁寧に言った。
「仕方がありませんね。では、鳴様が仕事から帰ったら、ご指示を仰ぐことにいたしましょう。それまで館の中でお待ち下さい。由乃さん、客間へのご案内を頼みます。そうですね……三階の部屋がいいかもしれません」
「はい。わかりました。では、成子様、お荷物をお預かりします」
「ありがとう! ああよかった。これで一安心だわ」
大きく重いボストンバッグを受け取ると、由乃は成子と共に客間へと向かった。階段を上がっていると、絡みつくような視線を感じる。どこかから蜜豆が見ているに違いない。おそらく突然やって来た成子を品定めしているのだ。
「着きました。このお部屋でお待ち下さい」
「ええ……まあ! 西洋風の素敵なお部屋! 絵画も調度品も素晴らしいわ。さすが多聞財閥ね」
部屋に入った成子は、ぐるりと辺りを見回して、感嘆の声を上げた。館内の絵画や調度品は、海外に住む現当主が直接買い付けた高価なものらしい。前にその話になった時、厳島に館内の総額を聞いて、由乃は卒倒しそうになった。
「日当たりも最高。窓から中庭が見えて清々しいし、寝具もきちんと整えられていて……この家の使用人は優秀ね」
「恐れ入ります」
「……は?」
「え?」
目を丸くした成子と、彼女の前で首を傾げる由乃。お互いがポカンとする不思議な空気が数秒流れたのち、成子が言った。
「あら、そうなの? でも……せっかく来たのだし待つわよ」
成子はにっこりと微笑む。引き下がるつもりは露程もないようだ。諦めた様子の厳島は、それでも礼節を欠くことなく丁寧に言った。
「仕方がありませんね。では、鳴様が仕事から帰ったら、ご指示を仰ぐことにいたしましょう。それまで館の中でお待ち下さい。由乃さん、客間へのご案内を頼みます。そうですね……三階の部屋がいいかもしれません」
「はい。わかりました。では、成子様、お荷物をお預かりします」
「ありがとう! ああよかった。これで一安心だわ」
大きく重いボストンバッグを受け取ると、由乃は成子と共に客間へと向かった。階段を上がっていると、絡みつくような視線を感じる。どこかから蜜豆が見ているに違いない。おそらく突然やって来た成子を品定めしているのだ。
「着きました。このお部屋でお待ち下さい」
「ええ……まあ! 西洋風の素敵なお部屋! 絵画も調度品も素晴らしいわ。さすが多聞財閥ね」
部屋に入った成子は、ぐるりと辺りを見回して、感嘆の声を上げた。館内の絵画や調度品は、海外に住む現当主が直接買い付けた高価なものらしい。前にその話になった時、厳島に館内の総額を聞いて、由乃は卒倒しそうになった。
「日当たりも最高。窓から中庭が見えて清々しいし、寝具もきちんと整えられていて……この家の使用人は優秀ね」
「恐れ入ります」
「……は?」
「え?」
目を丸くした成子と、彼女の前で首を傾げる由乃。お互いがポカンとする不思議な空気が数秒流れたのち、成子が言った。