園山成子は蜷川華絵と違い、華やかさの中に品の良さと賢さが見え隠れしている。こういう人が鬼神のお嫁様には相応しい。そう思いつつ、響の様子を窺ったのだが、彼は表情を変えず淡々と言った。

「度々招待状を送りつけていた理由はこれか? 申し訳ないが断らせてもらう」
「ん? なぜだ?」

 思わぬ返答に増長は首を捻り、成子は目を丸くする。隣で聞いていた由乃も、顔には出さないがかなり驚いていた。確かに突然の申し出である。だからこそ、もっとよくお互いを知り、話をしてから答えを出してもいいものを、響は一考もせずに却下したのだ。完璧な淑女である成子のどこに不満があるのだろう。

「仕事が忙しくてそれどころではない。国のお歴々がちゃんと政治をしてくれれば、もっと楽になるのだがな」
「ほう? 私たちのせいだと?」
「違うか?」

 思わぬ展開になり、由乃はハラハラした。ふたりの話を聞いていた成子も、どうしようかと考えあぐねているようだ。ただならぬ雰囲気に周りがザワザワとし始める。軍の高官と大臣の言い争いは、人々の視線を釘付けにしていた。それを打開したのは増長だ。

「はあ……相変わらず難しい男だなあ。ノリが悪いというか、なんというか」
「悪かったな」
「ふふふ。いいさ。死ぬほど付き合いは長いからな。お前が首を縦に振らぬものを押し通すわけにもいくまい。成子、残念だが今日のところは引くとしよう。そのうち中佐の気も変わるかもしれないからな」
「は……はい。承知いたしました」