「おお、多聞中佐。ここにいたのか!」
人ごみの中を、ゆったりと闊歩してくるのは四十代くらいの男性だ。背が高く洋装が似合い、颯爽として太陽のような笑顔の紳士。どこにいても存在感に溢れるところが響とよく似ていた。周りの人々は、男性が歩くたび会釈をし、すっと身を引いている。由乃は、彼がとても身分のある人物だと推測したが、響は目に見えて嫌な顔をした。
「増長……増長外務大臣。どうも」
「そんなに嫌そうな顔をするなよ。いつの世もつれないなあ、お前は」
増長は子どものような笑みを浮かべた。由乃は響が言った「増長」という名前を聞いて、ピンときた。鬼神のひとりは増長家の者、ということを父親から聞いていたからだ。響と年齢の開きはあるが、それは人間の寿命の違いである。転生を繰り返す鬼神たちは、転生体の寿命がくれば次の転生をするまで何年か空く。その分、年齢にズレが生じてしまうのだ。
「いや、普通だが。で、何の用だ?」
「うん、実は紹介したい人が……おや……君……」
増長は由乃を見て目を瞬かせた。それから、次に目を細め、眩しそうに言ったのだ。
「多聞中佐の連れかな?」
「ああ、そうだ。彼女は今、うちで預かっている娘だ」
「ふうん。君、名前はなんというのかな?」
「あ、由乃と申します」
気後れしながら返答すると、突如、増長が身を乗り出し由乃の肩を掴んだ。
「素晴らしい色だ。こんな色を見たのは初めてかもしれないな。とんでもない善人か、または……」
「は……え?」
由乃はなにを言われたかわからず、ぽかんとした。すると、横にいた響が由乃の肩に乗せた増長の手を、むんずと掴んで外す。それから、怒ったように言い放った。
人ごみの中を、ゆったりと闊歩してくるのは四十代くらいの男性だ。背が高く洋装が似合い、颯爽として太陽のような笑顔の紳士。どこにいても存在感に溢れるところが響とよく似ていた。周りの人々は、男性が歩くたび会釈をし、すっと身を引いている。由乃は、彼がとても身分のある人物だと推測したが、響は目に見えて嫌な顔をした。
「増長……増長外務大臣。どうも」
「そんなに嫌そうな顔をするなよ。いつの世もつれないなあ、お前は」
増長は子どものような笑みを浮かべた。由乃は響が言った「増長」という名前を聞いて、ピンときた。鬼神のひとりは増長家の者、ということを父親から聞いていたからだ。響と年齢の開きはあるが、それは人間の寿命の違いである。転生を繰り返す鬼神たちは、転生体の寿命がくれば次の転生をするまで何年か空く。その分、年齢にズレが生じてしまうのだ。
「いや、普通だが。で、何の用だ?」
「うん、実は紹介したい人が……おや……君……」
増長は由乃を見て目を瞬かせた。それから、次に目を細め、眩しそうに言ったのだ。
「多聞中佐の連れかな?」
「ああ、そうだ。彼女は今、うちで預かっている娘だ」
「ふうん。君、名前はなんというのかな?」
「あ、由乃と申します」
気後れしながら返答すると、突如、増長が身を乗り出し由乃の肩を掴んだ。
「素晴らしい色だ。こんな色を見たのは初めてかもしれないな。とんでもない善人か、または……」
「は……え?」
由乃はなにを言われたかわからず、ぽかんとした。すると、横にいた響が由乃の肩に乗せた増長の手を、むんずと掴んで外す。それから、怒ったように言い放った。