「では、これは英語……凄い、鳴様は語学に堪能でいらっしゃるのですね」
「英語だけでなく、取引相手の言葉は全て話せるらしい。我が姉ながら優秀だな」
「まあ、天才ですか! 素晴らしい経営者に恵まれて、多聞財閥の未来は明るいですね」
由乃が大仰に言うと、響は目を細めた。現在日本の多聞財閥は鳴が取り仕切っているといっても過言ではない。金融関係が主であるが、末端まで見ると、運輸や小売り関係も多々ある。そのほとんどを鳴が動かしているのだ。本来ならばそれは次期当主である響の仕事、しかし彼は鬼神であるために悪鬼を滅ぼすに都合のいい憲兵隊を選んだ。いずれ当主の座に戻るにしても、業務のほとんどは、鳴とそのうち即戦力になるであろう奏に任せておけば問題ないだろう、と考えていた。
鳴と英国紳士の会話は弾み、やがてふたりは大勢の仕事仲間の輪に消えて行った。こういう場に馴染みのない響と、まったく縁もゆかりもない由乃。残されたふたりは晩餐会場の壁際で、慎ましく世間話をした。それはたわいもない話だったが、お互いの知らない一面を知れて、有意義な時間になった。屋敷では取り立てて話さないことも、ざわついたこの場所では心置きなく話せた。
そうして、三十分くらい経った頃。
楽しげな響と由乃のもとに、ある人物がやって来た。
「英語だけでなく、取引相手の言葉は全て話せるらしい。我が姉ながら優秀だな」
「まあ、天才ですか! 素晴らしい経営者に恵まれて、多聞財閥の未来は明るいですね」
由乃が大仰に言うと、響は目を細めた。現在日本の多聞財閥は鳴が取り仕切っているといっても過言ではない。金融関係が主であるが、末端まで見ると、運輸や小売り関係も多々ある。そのほとんどを鳴が動かしているのだ。本来ならばそれは次期当主である響の仕事、しかし彼は鬼神であるために悪鬼を滅ぼすに都合のいい憲兵隊を選んだ。いずれ当主の座に戻るにしても、業務のほとんどは、鳴とそのうち即戦力になるであろう奏に任せておけば問題ないだろう、と考えていた。
鳴と英国紳士の会話は弾み、やがてふたりは大勢の仕事仲間の輪に消えて行った。こういう場に馴染みのない響と、まったく縁もゆかりもない由乃。残されたふたりは晩餐会場の壁際で、慎ましく世間話をした。それはたわいもない話だったが、お互いの知らない一面を知れて、有意義な時間になった。屋敷では取り立てて話さないことも、ざわついたこの場所では心置きなく話せた。
そうして、三十分くらい経った頃。
楽しげな響と由乃のもとに、ある人物がやって来た。