それから、響は毎日帰宅し、必ず家で食事を取るようになった。昼は由乃のお弁当を持って行き、執務室で食べる。いつも仕事場で寝泊まりし、外食三昧だった中佐を知っている部下たちは、その様子を見て勘繰った。婚約しただとか、とうとう結婚かだとか、噂は軍内を駆け巡る。しかし、当の響の耳には全く入ってこなかった。仕事でも鬼と呼ばれる響に、あえて聞いてみようとする猛者はいない。響に近い蘇芳に事情を聞きたいと思っていたが、彼はちょうど関西の方に出向していて留守だった。そのため、誰も中佐豹変の真相を知ることは出来なかったのである。
そうして、二週間後。翡翠会館での晩餐会の日がやって来た。
由乃は薄桃色のドレスに身を包み、鳴と共に玄関で響を待っている。着慣れないドレスは足元に風が入り込んで落ち着かない。最初に着てみた時は、一歩踏み出した途端裾を踏み、転げそうになって蜜豆に大笑いされた。それから、鳴が教えてくれた歩き方のコツに従って練習し、なんとか様になるまでになったのだ。由乃の隣に立つ鳴は、洋装に慣れているのか、颯爽として美しい。背が高くて体型がよい鳴は、地味でガリガリな自分とは正反対の華やかさがある、と由乃は思っていた。
「すまない、待たせたようだ……」
カフスボタンを留めながら、玄関中央の階段を降りてきた響は、由乃を見て一瞬言葉を失った。薄桃色のドレスは彼女にとても似合っていた。鳴の見立ては素晴らしく、結い上げた髪に付けたアクセサリーも、胸に付けた可愛らしいコサージュも、どれも由乃の美しさを引き立てている。しかし、由乃の顔は暗い。それが、自信の喪失から来ているものだと、響は感じ取っていた。
「よく似合っているぞ」
「え……? あ、そ、そうでしょうか。そうだと嬉しいです」
はにかむ由乃の頬が、ドレスの色と同化する。すると、体内にある花もほんのりと色づき、大きな花弁をふわりと揺らす。恥ずかしさと嬉しさが入り混じった表情の由乃と、それを微笑ましく眺める鳴。ふたりをエスコートしながら、響は馬車に乗り込んだ。
そうして、二週間後。翡翠会館での晩餐会の日がやって来た。
由乃は薄桃色のドレスに身を包み、鳴と共に玄関で響を待っている。着慣れないドレスは足元に風が入り込んで落ち着かない。最初に着てみた時は、一歩踏み出した途端裾を踏み、転げそうになって蜜豆に大笑いされた。それから、鳴が教えてくれた歩き方のコツに従って練習し、なんとか様になるまでになったのだ。由乃の隣に立つ鳴は、洋装に慣れているのか、颯爽として美しい。背が高くて体型がよい鳴は、地味でガリガリな自分とは正反対の華やかさがある、と由乃は思っていた。
「すまない、待たせたようだ……」
カフスボタンを留めながら、玄関中央の階段を降りてきた響は、由乃を見て一瞬言葉を失った。薄桃色のドレスは彼女にとても似合っていた。鳴の見立ては素晴らしく、結い上げた髪に付けたアクセサリーも、胸に付けた可愛らしいコサージュも、どれも由乃の美しさを引き立てている。しかし、由乃の顔は暗い。それが、自信の喪失から来ているものだと、響は感じ取っていた。
「よく似合っているぞ」
「え……? あ、そ、そうでしょうか。そうだと嬉しいです」
はにかむ由乃の頬が、ドレスの色と同化する。すると、体内にある花もほんのりと色づき、大きな花弁をふわりと揺らす。恥ずかしさと嬉しさが入り混じった表情の由乃と、それを微笑ましく眺める鳴。ふたりをエスコートしながら、響は馬車に乗り込んだ。