「蜜豆は由乃と一緒に寝るそうです」
「……ほう。あの、気難しい奴が、随分懐いたものだな」
「蜜豆だけじゃなくオレも由乃は好きですよ。いい匂いがする。強いて言うなら、甘く芳しい花の香りだ」
「花……? それは、どんな花だ?」

 尋ね返しつつ、響は鼓動の早まりを感じた。自分に見えた蓮の花が、白玉にも見えているのか、と。

「さあ、オレは匂いだけしかわからないので、花の種類までは……」
「そうか……」
「あ、花と言えば……響様は中庭の様子をご覧になりましたか?」
「中庭? ああ、さっきまで見ていた。最後に見た時は枯れ果てていたが、今は蝋梅が綺麗に咲いているようだ。新しい庭師を雇ったのか?」

 そう告げると、白玉はぶんぶんと首を振った。

「いいえ。雇おうとした庭師は、中庭を見て匙を投げました。蝋梅や植物はすでに枯れ、もうどうしようもないと」
「そんな馬鹿な。あのように見事に咲いているじゃないか」
「そうなんです。由乃が中庭に出入りするようになってから、空気が変わったんですよ。オレや蜜豆は気になってずっと見ていましたが、彼女は枯れた蝋梅に水をやり、幹に手を当て、なにやら話しかけていました。それから……ほんの数日で、蝋梅は花を咲かせたのです」
「……では、由乃のせいだと?」

 訝しげに問いながらも、響は心の中で納得していた。普通の人間と違う要素なら、すでにあるからだ。

「たぶん……しかし、輔翼の家の遠縁とはいえ、ただの人間がそんな途方もない力を持つとは考えられません」
「そうとは限らない」

 え? と、首を傾げる白玉に、響は自身が見たものの話をした。身の内に見える蓮の花。光り輝く徳の色。一見して地味な由乃に眠る力は途方もなく大きなものかもしれないと。