その日の、深夜。
響はなにをするでもなく、自室のバルコニーから中庭を眺めていた。
最後に部屋から中庭を見たのは、一年以上前になる。あの時の中庭は、手入れをする者が辞め、中央にある大きな蝋梅が枯れかかっていた。あのまま、枯れてしまったかと思っていたのに、今夜は甘く清廉な香りを放ち、見事に花を咲かせている。暗闇に浮かぶ蝋梅は地上の星空のようで、天の星空を逆さ写ししたような美しさだった。
寒空の下、ぼんやり考えるのは、素晴らしく美味しかったケーキと夕食、そして、由乃のことだ。奏の件も衝撃的だったが、そのきっかけを作ったのが由乃だと聞いて、更に衝撃を受けた。同情に駆られ、思わず連れ出してしまった少女が起こした奇跡は、響の気持ちに少なからず変化をもたらしたようだ。
(徳の高さといい、身の内にある花といい、不思議なことばかり……やはり特別なものがあるのか? 神たる俺にも知らないなにかがあるというのだろうか)
考えても、答えは出ない。諦めて部屋に入ると目の前に白玉がいた。白玉はメトロノームのように尻尾を振りながら、首を傾げて響を見上げている。
「どうした? 珍しいな、お前がひとりで来るなんて。大抵いつも蜜豆が一緒だろう?」
響が尋ねる。普段、伝令や連絡役は蜜豆で、白玉が来ることは滅多にない。それは蜜豆が特殊能力、千里を一瞬で走る「神速」を持っており、伝令役に向いているからだ。白玉にも特殊能力がある。無双の怪力と遠方からも匂いを嗅ぎ分ける「嗅波動」だ。彼の本当の名は「羅刹」であり、蜜豆「夜叉」と対をなすものである。
響はなにをするでもなく、自室のバルコニーから中庭を眺めていた。
最後に部屋から中庭を見たのは、一年以上前になる。あの時の中庭は、手入れをする者が辞め、中央にある大きな蝋梅が枯れかかっていた。あのまま、枯れてしまったかと思っていたのに、今夜は甘く清廉な香りを放ち、見事に花を咲かせている。暗闇に浮かぶ蝋梅は地上の星空のようで、天の星空を逆さ写ししたような美しさだった。
寒空の下、ぼんやり考えるのは、素晴らしく美味しかったケーキと夕食、そして、由乃のことだ。奏の件も衝撃的だったが、そのきっかけを作ったのが由乃だと聞いて、更に衝撃を受けた。同情に駆られ、思わず連れ出してしまった少女が起こした奇跡は、響の気持ちに少なからず変化をもたらしたようだ。
(徳の高さといい、身の内にある花といい、不思議なことばかり……やはり特別なものがあるのか? 神たる俺にも知らないなにかがあるというのだろうか)
考えても、答えは出ない。諦めて部屋に入ると目の前に白玉がいた。白玉はメトロノームのように尻尾を振りながら、首を傾げて響を見上げている。
「どうした? 珍しいな、お前がひとりで来るなんて。大抵いつも蜜豆が一緒だろう?」
響が尋ねる。普段、伝令や連絡役は蜜豆で、白玉が来ることは滅多にない。それは蜜豆が特殊能力、千里を一瞬で走る「神速」を持っており、伝令役に向いているからだ。白玉にも特殊能力がある。無双の怪力と遠方からも匂いを嗅ぎ分ける「嗅波動」だ。彼の本当の名は「羅刹」であり、蜜豆「夜叉」と対をなすものである。