「あら? どうかしましたか、響様」
「い、いや。働き始めたばかりですぐ……その……嫁ぐ、というのは、多聞家のほうも困るのではないかと思っただけで……」
「なるほど。確かに料理の腕も素晴らしい由乃がいなくなるのは痛手ですわね。では、嫁いだあとも多聞家に働きに来てもらいましょう。なんなら、夫婦で住み込みなんてどうかしら? 部屋はたくさんあるのだもの」

 笑顔の鳴が、由乃に語る。
(なんだか、話がどんどんおかしなほうへと向かっているわ。嫁ぐ予定もまったくないのに、妄想を膨らまされても困る。響様の様子も変だし、蜜豆様も白玉様もニヤニヤして会話を止める様子もない。もう、こうなったら……) 
 仕方なく由乃は、話を変えようと会話に加わった。

「ま、まあ、その話はさておき、今日はせっかくの響様の誕生日なのですから、お祝いしませんか? ケーキも料理も、腕によりをかけて作りましたので、冷めないうちにお召し上がりいただきたく……」
「ああ! そうだった! 俺は由乃の料理を楽しみにしてきたのだ。よし、ではケーキと噂の絶品料理をいただこうじゃないか!」

 響が言うと、全員が頷いた。
 響たちがケーキを美味しそうに食べる姿を横目で見つつ、蜜豆と白玉にもケーキを振舞う。
 あるべきところに話が収まり、由乃はほっとした。
 全ての料理を出し終えて、一歩引いてみんなを眺める。響や奏、鳴が和気あいあいと会話し、それを幸せそうに見つめる神使たちと厳島。今後、奏との関係修復により、響が屋敷に帰る日が増えるのかもしれない。そう考えて、少し心が躍る由乃であった。