「……そうかもしれない。側にお前がいるのを忘れて力を使った、そんな迂闊な自分を恥じていたのだ。お前の火傷の痕は、俺の驕りの証だからな」
「驕りだなんて……響様は、正しい選択をしました。そのおかげで僕は生きています。だから、どうか……また、以前のように気安く接して下さい! お願いですから避けないで……」

 必死で訴える奏の肩に響は手を添える。それから、気持ちを込めて言った。

「俺たちは随分遠回りしたようだ。もっと言葉を交わしたり、気持ちを伝えたり、時には喧嘩したり……するべきなのだろうな。今からでも、間に合うだろうか?」
「もちろんです!」

 嬉しそうな奏の声が食堂に響く。
 鳴が嗚咽を漏らし、厳島が微かに肩を震わせ、一歩引いて見ていた由乃も涙で視界がぼやけた。兄弟の心の溝が埋まり、今日からまた強い絆が結ばれる。その場面に立ち会えたことと、ふたりの笑顔が見られたこと、それがなによりも嬉しいと思った。
 全員が感動に浸っていると、飄々とした声が辺りに響き渡る。

「さぷらいず、大成功じゃ!」

 甲高く勝ち誇ったように叫んだのは蜜豆。蜜豆は白玉の背に乗って現れ、ひらりと軽やかに飛び降りた。

「……さては蜜豆、誕生会はお前の提案だな」
「よい演出じゃったろう、響様」
「はあ……まあな。今は、素直に礼を言おう」
「いや、礼を言うのは我にではないぞえ?」

 意味深に言いながら、蜜豆が由乃に視線を向けると、場の全員がそれに倣う。突然、注目の的になった由乃は、流していた涙が引っ込むくらい驚いた。

「え、っと……なんでしょうか?」
「そうですね。由乃さんにお礼を言うべきでしょう」
「厳島さん? い、いや、どうして……私、なにかしたでしょうか」