「厳島、これはお前の分か?」
「とんでもございません」
「ああ、では由乃の……」
「いいえ、それも違います。そのケーキは奏様の分でございます」

 厳島の言葉と共に、静かに食堂の扉が開き、響が大きく目を見開く。そこにいたのは奏。新しい洋服に身を包んだ奏は、恥ずかしそうだが誇らしそうでもある。そんな弟を見て、信じられないと言った風の響は、しばらく無言だった。
 不思議な時間が食堂に流れる。全員が響の表情を窺い、どうなることかと注視している中、やがて、響が口を開いた。

「奏……大きくなったな」
「はい。三年で背も伸び、体重も増えました。服の丈が短くなってしまったので、鳴姉様に服を新調してもらいました」
「そうか。よく似合っている」
「ありがとうございます。あの、響様……僕……」

 たどたどしく言葉を紡ぐ奏の元に、響が立ち上がり歩み寄る。そして、目の前に立つと、奏の左首筋を見つめた。シャツの襟元で大方は隠れているが、そこには火傷の痕が残っている。

「消えない痕を残してしまったな……もう少し気を付けていれば、こんなことには……」
「いいえ! こんな痕、ちっとも気になりません。むしろ、かっこいいと思っているくらいです。僕は……僕が一番辛かったのは、響様に避けられたことなのです!」
「避けた……? いや、そんなつもりは……」

 そう言いつつも、響は顔を曇らせた。身に覚えがあったからだ。