軽く言葉を交わすと、響と厳島と鳴は食堂へ、由乃は厨房へと移動する。由乃は冷蔵箱に入れておいたバースデーケーキを出し、銀製の立派なワゴンに載せる。生まれて初めて作ったケーキという洋菓子は、思ったよりもよい仕上がりだ。ふんわりと膨らんだ丸いスポンジを横に切ってクリームと果物を挟み込み、元に戻す。そして、上から薄くクリームで覆い、美しく見えるように飾り付けをして出来上がり。言葉で説明するのは簡単だが、手順は実に難解で、ちゃんと出来たのが不思議なほどだ。
由乃はワゴンを押して、食堂へと向かった。食堂では響と鳴が談笑し、厳島が紅茶を淹れている。高級舶来品である紅茶の芳しい香りが、食堂に充満する中、由乃はバースデーケーキを慎重にテーブル脇へと運んだ。
「それが、バースデーケーキというものか?」
興味津々で響が覗き込む。
「はい。初めて作りましたので、いささか不格好ですが……」
「不格好? どこがだ? ケーキというものを何回か見たことがあるが、その中でも一番旨そうだ」
「えっ! あ、ありがとうございます」
思わぬ誉め言葉に由乃の頬が赤くなった。多聞家に来てから、何度も料理を褒められている。けれど、響に褒められるのは、なにかが違う。気恥ずかしく、胸の内がぽかぽかと温かくなり、落ち着かなくなる。これまでの人生で初めての感情に、由乃は驚いていた。
「由乃さん? ケーキを切り分けてもらえますか?」
「あ、はいっ!」
厳島の言葉に我に返った由乃は、ケーキを切り分け皿に載せた。響のものと鳴のもの。それとあと、もうひとつ。
その余分な皿を見て、響が口を開いた。
由乃はワゴンを押して、食堂へと向かった。食堂では響と鳴が談笑し、厳島が紅茶を淹れている。高級舶来品である紅茶の芳しい香りが、食堂に充満する中、由乃はバースデーケーキを慎重にテーブル脇へと運んだ。
「それが、バースデーケーキというものか?」
興味津々で響が覗き込む。
「はい。初めて作りましたので、いささか不格好ですが……」
「不格好? どこがだ? ケーキというものを何回か見たことがあるが、その中でも一番旨そうだ」
「えっ! あ、ありがとうございます」
思わぬ誉め言葉に由乃の頬が赤くなった。多聞家に来てから、何度も料理を褒められている。けれど、響に褒められるのは、なにかが違う。気恥ずかしく、胸の内がぽかぽかと温かくなり、落ち着かなくなる。これまでの人生で初めての感情に、由乃は驚いていた。
「由乃さん? ケーキを切り分けてもらえますか?」
「あ、はいっ!」
厳島の言葉に我に返った由乃は、ケーキを切り分け皿に載せた。響のものと鳴のもの。それとあと、もうひとつ。
その余分な皿を見て、響が口を開いた。