「暇つぶしに俺を巻き込むな。あ、そうだ。蘇芳、お前蜷川家を知っているか?」
「輔翼の家の蜷川家ですか? うーん、ほとんど知りません。北の地の輔翼とは交流がないので」
「そうか。輔翼の家ならば、積極的に鬼神に接してくるものだと思っていたが……蜷川家は少し違ったな」

 思い起こすと、蜷川家が多聞家に手紙を送って来たのは三年前くらいからだ。それまでは、まったく音沙汰はなく存在すらも忘れかけていたのだ。

「ああ、うちとは大違いですね。遠藤家はいつの時代も鬼神に取り入ろうと必死ですから」
「それ相応の働きで返しているのだから構わない」
「ありがとうございます。で、その蜷川家がどうかしたんですか? 確か休暇中に招かれていましたよね。縁がなかったようですけど」
「耳が早いな」

 響が言うと、蘇芳はわざとらしく微笑んだ。鬼神が輔翼の家に行く……それは嫁取りが絡んでいることがほとんどだ。そのため、そういう情報は早く伝わる。当代の鬼神の花嫁への関心は輔翼の家にとって重大なことなのだ。

「いや……知らないならいい。ただ少し、気になることがあっただけだ」

 あの家に足を踏み入れた時の、妙な違和感と居心地の悪さ。それと由乃が置かれていた境遇。思い返すとどうにも嫌悪感が増してくる。つい気になって蘇芳に尋ねたのはそのせいだ。

「気になること、ですか。うーん、では少し探ってみま……あっ!」

 話の途中で、蘇芳は響の肩越しを見て眉根を寄せる。その視線を追い響が振り向くと、仕事机の上に、蜜豆が座っていた。