どうして奏が由乃に思いを打ち明けてくれたかには疑問が残る。だがそんなことより、三年間すれ違っていた兄弟のわだかまりを解消出来ることのほうが、ずっと重要だった。
 厨房へ帰りつつ、由乃は厳島のいそうな場所を探して回った。その途中で、蜜豆に出会った。

「おや由乃、なにを慌てておるのじゃ?」

 ゆったりと柱の影から姿を現した蜜豆は、ゆらゆらとご機嫌に尻尾を揺らし、由乃に近付いた。

「蜜豆様! 奏様が響様に会いたいというので、厳島さんに連絡してもらおうかと思い、探しているのです。どこにいるかご存じですか?」
「……ん? 今、なんと言うたかの?」
「厳島さんがどこにいるかご存じですか、と?」
「違うわ! その前じゃ。奏が響様に会いたいと……そう言ったか?」

 両前足を由乃の膝にかけ、慌てたように詰め寄る蜜豆に由乃は頷いて見せた。そして、経緯を知りたがる蜜豆に、簡単に話して聞かせた。

「なんと……そうじゃったのか。すれ違い、とはな。やれ、人とは面倒なものよ。響様も鬼神とは言え、本体は人間。気付かぬのも仕方ないことよの」
「そうですね。あ、それで、厳島さんの居場所は……」
「知らん!」

 そう言い切ると、蜜豆はヒョイと由乃の肩に乗る。そして、あたかも妙案を思い付いたように囁いたのだ。

「せっかくの兄弟の氷解じゃ。ここは感動的に演出してみぬか?」
「感動的に……ですか?」
「そうじゃ。実はの、響様の誕生日が明後日なのじゃ。その祝いの席を設け、響様に内緒で、奏と会わせる。英国では『さぷらいず』というらしいぞえ!」
「さぷらいず?」