由乃の心の中では、全ての物事が整理されていた。厳島の話と、奏の話が食い違っているのは、お互いの思い込みによるものだったのだ。響は火傷を自分の責任だと思い奏を避けた。当の奏は、響に避けられていると信じ込んで……。

「奏様は、響様が大好きなのですね?」
「当然だよ!」 
「火傷の件で響様を恨んではいない、と?」
「恨むなんてありえない! あの時、助けてくれなかったら、僕は死んでいたんだから」

 儚そうな少年は、その容姿とは逆に力強く言い放つ。その瞳は、燦燦と輝き、兄に対する憧れと尊敬に満ち溢れていた。

「響様は奏様のことを嫌っていないと思います」
「えっ! そうなの?」
「はい、たぶん。私の思うに、これは奏様と響様、お互いの気持ちがすれ違ったため起こった状況、そう考えます」
「……どういうこと? わかるように説明してよ」

 しきりに首を傾げる奏に、由乃は自身の考えを述べた。すると奏は、不安そうな表情から一転、明るく晴れやかな顔になる。十三歳の少年らしい、弾けるような笑顔に。

「僕、嫌われてなかった、ってことだよね?」
「そうですよ! ですから、堂々と響様に会いましょう! では早速厳島さんに知らせないと!」
「う、うん。なんか緊張するね。由乃、呼んで来てくれる?」
「はいっ。直ちに」

 由乃はさっと踵を返すと早足で部屋を出て、角盆を持って厨房へと向かった。
 三年間、すれ違い続けた思いが今、重なる。そう思うと、居ても立っても居られなくなった。