「い、いや……待って。厳島に言ったら、すぐに響様に伝わりそうだから」
「伝わってはダメなのでしょうか?」
「と、とにかく、入って!」

 奏は由乃の手を引き、部屋に入れる。そして、見事なアンティーク調の椅子に招くと、自身も対面に腰掛けた。

「響様は元気なの? 近況を教えて!」
「は、はい。元気、だと思います。あまり屋敷にお戻りになりませんので、近況はわかりかねますが……」
「屋敷に戻らない……の? ……そう、やっぱり僕、まだ嫌われているんだ」
「え? あ、あの、それは、どういう意味でしょうか?」

 由乃は驚いて奏に詰め寄った。厳島から聞いていた話となにか違う。奏は火傷の痕を気にして部屋に籠っている、のではなかったか。そして、響を避けている様子であったとも。しかし、目の前の奏は、響の近況を知りたがり、嫌われていると言って、項垂れている。

「奏様、私が聞いた話と相違がある気がいたします」
「え? 相違って?」

 身を乗り出して尋ねる奏に、由乃は厳島から聞いた話をした。
 すると、奏は目を見開いて捲し立てたのだ。

「ち、違うよ。全然違う……火傷を負って気を失った僕は、気が付いてからすぐに響様に会いに行ったんだ。助けてくれたお礼を言いにね。でも、響様は会ってくれなかった。なにかと理由を付けて避けたんだ。きっと、火傷なんかで気を失った僕を情けないと思ったんだよ。鬼神の弟なのに軟弱だ、って……」
「それで、お部屋に籠ったのですか……」
「僕に会いたくないんだって……そう思ったから」

 奏は俯いて縮こまった。