「どうしました? そんなに急いで」
「これを見て下さい! 手紙が梅の花の形に折られているのです。奏様が作ったのですよね?」

 角盆に目を凝らしていた厳島は、梅の花を発見して目を丸くした。そして、指で摘まんで持ち上げると、今まで見たこともないくらい、目尻を下げたのだ。

「ええ……ええ! そうです、奏様は手先が器用で、よく折り紙を作っておられました。この梅の花も、まさしく!」
「そうですか! では、手紙を読んで下さっているのですね!」

 由乃は嬉しくなった。返事を求めて書いていたわけではないが、反応があると嬉しいもの。 閉ざされた扉の、いや、心の隙間から一筋の光が漏れたような気がしていた。

「私、手紙を書き続けます。続けたら、奏様は出てきてくれるかもしれませんよね」
「由乃さんの細やかな祈りが、通じたのでしょう。引き続きよろしくお願いいたします」
「はい」

 言葉通り、由乃は奏に手紙を書き続けた。すると、置いた一筆箋は、様々な折り紙に形を変えて戻ってくる。ある時は猫に、ある時は犬に。向日葵の時があれば、桜の時もあった。
 そして、由乃が手紙を書き始めて二週間ほどたった昼下がり。膳を下げに行った由乃が聞いたのは「ありがとう」という小さな声だった。

「奏……様……と、とんでもございません! あの、料理はお口に合いますでしょうか?」

 扉に向かい、由乃は叫んだ。

「うん、美味しい。特に、漬物……あれが、もっと食べたい、いいかな?」
「あ、はい、糠漬けでございますね。もちろんでございます! 夕餉には新しく漬けた蕪と人参をお出ししますね」