「食べ終わったものを下げて、昼餉を置く。それだけです」
「……はい」

 言われた通りに、昼餉を置き、食べ終わった朝餉の食器類を回収する。扉の近くで、耳を凝らすと、一瞬人が動く気配がした。しかし、それ以降、気配は消え静寂が辺りを包んだ。
 厳島が「行きましょう」と目で促す。察して由乃も踵を返した。
 無言で歩きながら、由乃はずっと考えている。部屋で食事をとること自体はなんの不思議もない。でも、顔も合わせず、部屋にも入らせず、扉の前に食事だけ置いておくという行動は、どこかおかしい。そこには、誰にも会いたくない、という、奏の拒絶が感じられたのだ。

「変だと思いますか?」

 不意に厳島が問いかけてきた。それは、きっと、奏についてだろう。考えていたことがバレたのか、と、どきりとした由乃は、咄嗟に否定した。

「い、いいえ」
「……いいのですよ、正直に言って下さい。由乃さんは、響様に認められた使用人。蜜豆様と白玉様もあなたを信頼しているようです。かくいう私も、そうなのですが」
「ありがとうございます。では、あの、お言葉に甘えてお聞きしたいのですが、奏様はどうして外に出ていらっしゃらないのでしょう」
「奏様は……そうですね。昔、起こった出来事が原因で、心を閉ざしているのです。ああ、立ち話もなんですから、一度厨房へ戻りましょう」

 気になる言葉を残し、背を向ける厳島を由乃は追った。
 厨房に戻ったふたりは、難しい顔で向き合い、重い話の続きを開始する。