「謙遜しなくていいわ。本当のことだもの。ともあれ、これで多聞家の胃袋の安全は保たれたわね」
「どういう意味か、お聞きしても?」

 ぼそっと呟いた厳島の言葉を、鳴は無視して食事を続けた。先ほども、神使たちに同じようなことを言われていたけど、そんなに厳島の料理はまずいのか……と、由乃は逆に興味を持った。
 その後、厳島が奏に朝食を持って行き、食堂には鳴と由乃のふたりが残された。白玉と蜜豆もいたが、彼らは熟睡しているようだ。静かに美しく食べる鳴を、じっと見つめる由乃。
 すると、鳴が箸を止めた。

「由乃は、蜷川家の分家なの?」
「え? あ、ええ、はい」

 正確には、元は本家で今は分家以下の使用人。しかし、それを説明する必要はない。由乃の境遇など、多聞家の人々には関わりのないことなのだ。

「響様が輔翼の家に行くっていうから、とうとうお嫁様を選ぶのだと思っていたわ。それが連れ帰ったのが使用人でしょ?……驚いたわ」
「申し訳ありません」
「あら、どうして謝るの? 由乃でよかったって安心したのよ。実はね、蜷川家からしつこいくらい手紙が来ていたの。響様宛に、一度でいいから来てくれとか、自慢の娘に会ってくれとか、とてもはしたない内容で。響様も嫌がっていたから、蜷川本家の娘がお嫁様に選ばれる可能性は低いと思っていたのよ」

 鳴は軽く笑って肩を竦めた。
 一昨日、響が蜷川家に来た背景には、そんな理由があったのか、と由乃は納得した。