鳴ははっきりとした口調で微笑んだ。鬼神の転生体が生まれる家では、家族の中に鬼神が誕生した場合、親兄妹であっても「様」付けで呼ぶのが普通だ。鬼神の権力は絶大で、誰も逆らえないのだと、父、徳佐から聞いたことを思い出した。鳴が響様と呼ぶのも、口を挟まないと言ったのもそのせいだろう。

「それにね、蜜豆様と白玉様が追い出さなかったのだもの。由乃が善人だというのは保証されているわ」

 鳴は食堂の入り口に目をやった。そこには白玉と、消えたはずの蜜豆が現れてまどろんでいる。満腹なのか、とても幸せそうだ。

「ありがとうございます」
「ふふ。ようこそ、由乃。私は多聞鳴。鬼神、響様の姉に当たるわ。多聞財閥の全権を任されているの。さて、挨拶は終わり。冷めてしまう前に朝餉をいただきましょう」
「はい」

 由乃はお粥を大きめの器によそい、漬物等を入れた小鉢と味噌汁、お浸しを準備する。そして、鳴の前に置いた。

「あら、お粥ね」

 鳴はたおやかに両手を合わせ、木の匙を持ち上げると、お粥を掬い口に運ぶ。上品に咀嚼し、次に糠漬けを食べ、またお粥を咀嚼する。流れるような動作に見惚れていると、不意に鳴が由乃を捉えた。

「これは由乃が作ったのね」
「は、はい。いかがでしょうか?」
「とても美味しいわ。胃がゆっくりと目覚めていく感じがする。お粥も、だし巻き卵もいい味付けね。でも、一番はこの糠漬けかもしれないわ。これ、とても美味よ。増産して売り出したいくらい」
「ええっ! そ、それは褒め過ぎです!」

 大袈裟に恐縮する由乃を見て、鳴はフッと笑みを溢した。